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住宅ジャ−ナル2006年7月号記事
住生活基本法と全国計画
20−5年までの住宅政策の全貌が見えてきた
耐震/バリアフリー/省エネ/目標数備に向けての新たな出発
住宅の憲法″とも言われ、不可侵のお題目の中に業界改造と市場淘汰の原理を打ち立てると騒がれていた住生活基本法が6月8日に交付・施行。その具体的施策となる全国計画が6月未の審議会でついに明らかになった。
「質の向上」背後の積み分け論理
住生活基本法は全四章。うち憲法的理念と施策の方針について定めているのは第一章・第二章。具体的な施策となる住生活基本計画(全国計画) の大枠を定めたのが第三章だ。全国計画ではバリアフリー化率・耐震率なども定められ、今後10年間の住宅政策がほぼ決定づけられる。 基本法とは、政治上、重要な役割を占める分野の仕組みや政策についての原則と基本方針を明らかにした法律のこと。憲法の理念は基本法によって特定の分野に具体化されて伝えられる。つまり「住生活基本法ではじめて住宅の憲法のようなものができた」というわけだ。
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住生活基本法の第三粂から第六条までが、その基本理念となつているが、ここで最初に挙げられていることは「良質な住宅の供給」である。条文の中には、住宅の戸数に関する記述が一切盛り込まれていない。これが住宅建築計画法・五カ年計画との大きな違いである。これまで住宅建築計画法の第四条では、「国民生活が適正な水準に安定するまでの間、当該期間中の住宅の建設に関する計画(住宅建設五カ年計画) の案を作成する」と記されていた。これによって第一期五カ年計画では一世帯一住宅の水準に達するまでの住宅の増産計画が中心に据えられた。こうした住宅の「量」を重視する計画は、第三期五カ年計画 (昭和51〜55年)で初めて見直され、新たに居住水準目標を設定することによって住宅における質の充実を図ろうとしたが、量の確保を主眼とした本法の基本的性質は変わることがなく、質の向上についての政策を的確に進める上で妨げになっていたという。そこで66年の制定以来、過去40年にわたって続いてきた住宅建築計画法・五カ年計画を撤廃し、「量から質」 へと脱却するために住生活基本法を打ち立てたのが、これまでの経緯である。 その結果、公営住宅などの「量の時代の遺産」はどうなるのか。第三章の2項3号には人口増加の著しい9都道府県のみで住宅・住宅地の供給と促進が引き続き行われていくと記されている。 つまり住生活基本法は、質の向上と称して従来の政策を大転換するわけではなく、従来の政策を棲み分けによって温存しながら、21世紀の長期的政策視野に備えていくための法である。それは全国計画の期間にも表れている。これまでの五カ年計画において進められてきた5年ごとの計画ではなく、10年おきの計画に変わるというが、実際は5年後に見直し修正して次の10年彼の計画を立てるので、5年おきの見直し修正を入れた10年おきの計画となる。ここにも5カ年計画のタイムスパンが温存されている。
新たな護送船団方式の思惑
同法では、良質な住宅の供給(第三条)の他に、自然・歴史・文化の地域特性に応じた居住環境の形成(第四条)、多様化した住宅需要への情報支援(第五条)、などを一大目標にかか げ、基本的施策として、耐震リフォー
ムなどの地震対策を目的とした改築、省エネルギー化の促進、バリアフリー化など少子高齢化に向けての安全快適な住まいの普及を掲げた。(第十一条) こうした質の向上は量の向上とは本末転倒の護送船団方式の出現でもある。 その護送船団とは、全ての船ではなく性能のいい良質な船だけの護送であることも気になる。つまり五カ年計画の一世帯一住宅の目標が掲げられた時代のボトムアップの護送船団とは相異なる。耐震リフォームに対する助成金を例にあげても上質な住宅に対する更なる質の向上への支援である。つまり「勝ち組」だけが政策の恩恵を受けて、上質の優位を謳いあげるトップダウン型の計画となる危険をはらんでいる。こうした不安に対して国は慎重な姿勢を見せてきた。まず、この住宅基本法成立の背景には、平成10年の基準法改正と、それに伴う住宅品質確保の促進に関する法律が定めちれたことがあり、基本法としての法制的基盤がこの10年の間にしだいに固められてきたことが、今回の制定につながったという。未曾有の不況の中で奇跡の光菅を放ったリフォーム産業も今や居室一部だけの改装は減り、高齢住宅・耐震化リフォームと変容してきた。その背景で動いてきたのが国・地方自治体の奨励政策である。こうした御膳立てが揃ったところで、国は助成金制度を一層拡大させ、高所得者だけではなく中低層所得者の公営・民間住宅への普及を図るために同法を成立させたのだ。
全国計画4つの目標
全国計画は、以下の4つの目標に大別される。(1)良質な住宅ストックの形成及び将来世代への継承。(2)良好な居住環境の形成。轄走ッの多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備。(3)住宅の確保に特に配慮を要する者の居の安定の確保がある。
そのうち(1)には@基礎的安全性としての新耐震基準適合率、A高齢化社会に対応するためのバリアフリー化率、B地球環選対策としての省エネ対策率。Cリフォーム実施率、D長期修繕計画のための積立金を設定しているマンション比率の合計5つの指標がある。(図参照) これら5つの指標は、平成15年のデータをもとに10年計画分の平成27年までの数値目標を打ち出している。まずこれらのデータを中心にしながら4つの目標全体を概観する。
「成果指標」の目標数値についてはこちらをクリック⇒
助成金によって拡充する耐震化
耐震率は75%(平成15年)から90%(平成27年)までと、ほぼ全ての住宅への拡充を目標としている。これは平成5年度からの耐震化率の推移と推計をもとに割り出された数値である。国土交通省の統計によれば、平成5年度の耐震化率は62%だったのが、平成15年度には75%まで伸びている。現状の推計によれば、平成30年に耐震化率90%まで伸びていくと予測されているが、平成27年度までには90%の達成を目標としている。この背景には今年度に創設された耐震改修促進税制や、今年度から拡充する耐震改修への助成、それに新築住宅分は建築基準法で担保になることや昨年10月に改正された耐震改修促進法など、施策の充実による耐震化率の一層の向上が見込まれている。
バリアフリー化は早急に拡充
バリアフリー化率は10%から25%の増加を見込んでいる。これは、共同住宅のうち、道路から各戸の玄関まで車椅子・ベビーカーで通行可能な住宅ストックの比率のことを指している。この数値は平成15年度の住宅全体での共用部分バリアフリー化率が9・3%であるのに対して、共同住宅が10・4%とほぼ同じ比率であることから、今後はこうした個人の努力では達成困難な設備の比率の向上を行政の働きかけで押し上げて行こうという目標である。 また全国計画の、目標4の「住宅の確保に特に配慮を要する者の居の安定の確保」には、65歳以上の高齢者が居住する住宅のバリアフリー化率の充実がある。これは現実に高齢者の居住して いる住宅において、バリアフリー化率が先進国の中でも極めて低いという現状から早急な拡充のために目標化された。これによると、「手すり対応」 や「投差のない住宅」などの最低限のバリアフリー化率は、29%(平成15) から一気に75%まで引き上げることが目標とされている。そして介助が必要な高齢者向きのための「2箇所以上の手すり設置」「段差のない屋内」「車椅子が通行可能な廊下の幅」 の3点セットを満たす高度のバリアフリー化率も6・7%から25%まで引き上げる。 主な施策としては、ハートビル法による特定建築物の新築時のバリアフリー義務化がある。東京都・京都府などでは、共同住宅がすでにこの特定建築建築物に追加されている。また住宅金 融公庫の優良住宅取得支援制度による金利優遇制度や、地域住宅交付金によるリフォーム助成による効果も見込まれている。 また、高齢化に対応したリフォーム工事は220万戸(平成6〜年10年)から316万戸 (平成11年〜15年) まで急激に増加しており、今後のバリアフリー化の工事の促進によって一層の増加が見込まれる。こうしたバリアフリー化や耐震リフォーム86万戸増加に比べると居住室のみの増改築は平成1〜5年に比べて半分以下に落ち込んでいる。また今後はローン減税による築後年数の緩和によって既存住宅の市場での流通がさらに促進される見通しだ。既存住宅の流通率は13%から23%へ、住宅の長寿命化を表す減失住宅の築後平均年数も30年から40年に引き上げられる。こうした統計から住宅戸数全体におけるリフォームの実施率も向上することが見込まれており、目標数値は2・4% (平成15年)・から5%(平成27年)に設定された。
省エネ化はサッシ・ガラスのみ
耐震化率やバリアフリー化の充実に比べると、省エネ化はかなり消極的な目標にとどまっている。なぜなら省エネルギー対策は18%から40%までに目標設定されているが、その内訳は冷暖房コスト削減のための二重サッシと複層ガラスの普及のみであるからだ。 こうした省エネ対象の理由として、審議会では「住宅ストック全体の断熱性などの正確な現状把握は技術的に困難なため、二重サッシと複層ガラスを使用した住宅に代替する」と言及している。また、その他の太陽発電・オール電化などの省エネ資源については、「太陽光発電・省エネ対応機器などの普及率を併用することも考えられるが、有効な設備機器の特定と使用状況の統一的な把握がなされていない」ことが理由にあげられている。 こうした理由から考えるに、断熱対策の住宅全体における効果とその統計調査の不足、また省エネ対応機器の全体的なデーター把握が遅れている現状が露呈したと言えるだろう。 主な施策としては省エネ法(平成17年改正) による新築時の省エネ計画の届出義務化や、住宅金融公庫の優良金利優遇制度、地域住宅交付金によるリフォーム助成がある。しかし、これだけで十分な施策と言えるだろうか。 これらの耐震等級、省エネ等級、バリアフリー等級は、個々の住宅の住宅性能表示に明記されていくが、この平成12年度から始まった新築の耐震性能表示の普及率は、統計上の予測に基いて16%(平成17年度)から50%(平成22年度) にまで引き上げることが目標となつた。これも今後l・0年の建築計画をもとに割り出された数値である。
今後の動向
これらを見るとバリアフリー化など一部の目標を除けば、思い切った政策を打ち出せていないことは明白であり、各市町村の条例や、業界内での総合的な把握と調査にゆだねられている。 今回の全国計画案は今月7月にパブリックコメントを取りまとめ、8月末に社会資本整備審議会で回答。閣議決定は秋ごろを予定している。各都道府県計画の策定はその後になる。 また住宅セーフティネットの構築メインとなる公・民間賃貸住宅についての制度的措置についてはまだ審議中で今回は取り上げることができなかったが、8月に分科会で提言が取りまとめられる。
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